施設づくりへの思い

認知症の母にゆっくり過ごしてほしい。
家族の視点でつくった施設です

写真:姫野 信吉

母親を入所させたい施設が見つからない。
まさか自分がそんな状況になるとは想像もしていませんでした。

1995年ごろ、私の母がアルツハイマー型認知症を発症しました。
トイレにも1人で行かせられない、目を離すとすぐに徘徊して大騒動を起こす。
そんなことが続き、介護していた姉が疲れ果てているのを見て「そろそろ介護施設に入居してもらおうか」と家族で話し合いました。

ところが、広川町には介護老人保健施設(老健)が1つもなかったのです。
遠くの施設ではかえって見舞う家族に負担がかかります。地元の方々も近くに施設がなく、働き盛りの人たちが介護に手を取られてしまい、収入は減るのに出費がかさむと困っているようでした。

悩んでいるとタイミング良く、福岡県内に新しく老健をつくるよう行政の指示がありました。
「これはチャンスだ」と手を挙げ、八女発心会では100床の介護施設をつくることになります。

写真:航空写真を確認している様子

建設するにあたって、まず全国の介護施設を見学しました。
いくつかの成功例を見て感じたのは「認知症の患者さんには平屋造りが良い」「寝室は個室が良い」ということです。マンションタイプの建物で1つのフロアしか自由に移動できない環境では、圧迫感があり精神状態が不安定になりやすい。夜はぐっすり休める個室だとストレスが少ないのです。しかし100床もの個室がある老健を平屋でつくるには、広大な土地が必要です。頭を抱えました。

すると自宅の目の前に、子どものころ友人達と遊んだ山があるのに気づきました。
この山を切り開けば、広い土地になるのではないか。すぐに調べると、山の土地は細かく分けられ30人近くの地主がいると分かりました。その一人ひとりと交渉し、7万平方メートル、およそ福岡ドーム1個分の土地を手に入れたのです。

写真:舞風台の外観

そして2000年に『介護老人保健施設 舞風台』が完成します。東西南北に伸びた造りで、入居者さまが自由に散歩できるよう建物を芝生で囲みました。

1人目の入居者はもちろん母です。狙い通り、あれだけ家族を悩ませた徘徊は嘘のように減りすっかり落ち着きました。最期までグループ内の施設でゆっくりと過ごしていて、親孝行ができたかなと思います。

写真:リハビリ中の様子

日常を大切にする姿勢はリハビリにも通じています。
特に力を入れているのは「生活リハビリ」です。健康なときに近い状態でトイレ・お風呂ができるトレーニングを重点的に実施します。いずれ病気になっても、最期の1週間までトイレで用を足し自分らしい生活を送るためのリハビリです。

私たち八女発心会の強みは「総合力」です。医療を中心に、コメディカルスタッフやすべての職員が協力してあらゆる面から生活をサポートします。要介護度や必要な医療処置、障害の有無、家庭の事情など入居者さまが抱える問題はそれぞれ違います。異なるお悩みを一つひとつ解決できるのが、私たちの施設です。